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神話

多次元宇宙神話

■神話宇宙少女 光と闇の輪 時から降りた神々の物語
陽花宮と冥界の物語

序章

第1章 前兆

第2章 ロザリア探索行(外部リンク:冥王城)

第3章 冥王(外部リンク:冥王城)

第4章 図書館

第5章 地球顕眼(外部リンク:冥王城)

第6章 祭り(外部リンク:冥王城)

第7章 理解(外部リンク:冥王城)

終章

幻影世界編 ネメシスの物語(外部リンク:神魔王城)






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終章

終章


   Ⅰ

「お帰りなさい、ロザリア。そしてお誕生日おめでとう」
「ただいま、イスカ様、それにみんな」
 ロザリアは私と抱擁を交わし、それから羽世羽とアーニャとも順番に抱擁を交わした。

 ロザリアの誕生会。彼女にはまだ正式にお祝い会を開いてあげていなかった。彼女の願いで特大のイチゴケーキが用意された。もちろん果樹園花で採れた不死イチゴである。
 始原花にある広い宴会場に二つの次元の首脳部が集まった。空気に含まれる複数種の音精霊たちが互いに振動して誕生日らしい明るいシンフォニーを奏でている。
 お友達は多いほどいいわよね。
 長方形の茶色のテーブルとその周囲に並んだ赤い座布団の所にみんな集まった。
 テーブルの名前は〝無限に食べられる物、出瑠〟。
 この神は、料理が生成される食料花と繋がっていて、望むご馳走が食べたいだけ現れる能力を持っている。
 お寿司にそばにお刺身などなど……たくさんの料理が出てきた。桜や薔薇の花を模した和菓子や羊羹にお餅と、お菓子もいっぱい。冥王たちは始めて見る食べ物に興味津々のようす。
 会の主役であるロザリアの右隣に夜輝が、左隣にアーニャが座った。ロザリアの向かいに私が座り右隣に羽世羽、左隣にルシアが座った。冥王は威圧の欠片もこぼさず、先ほどとはまるで別人のように大人しくしていた。こうして見るとただの女の子ね。

「うどんはどうなったのかしら?」
「あれならおいしくいただいたわ。ただしフォークでね。付属していた二本の棒だけどあれは何なの?とてもうどんを食べるのに向いているとは思えなかったけど」
 いったいどんな使い方をしたのかしら?
 使い方を実践して見せた。
「やってみるわ、そんなの簡単よ」
 予想通り上手くいかない。冥王とあろう者がはし如きに苦戦するとは。
「気に入ったのなら使い方の動作記憶をあげるわよ」
「結構よ」
 冥王は即座に否定し……それから一言付け加えた。
「……練習するから」



 羽世羽が私と彼女専用の思念回線で話し掛けてきた。
「どうしてあの人たちを陽花宮の中に入れたんですか?彼女たちは敵じゃないんですか?」
「敵だったのよ」
「もう違うんですか?」
「そうみたいよ。御覧なさい、ロザリアとあの死神を。とっても仲が良さそうよ」
「本当に何があったんでしょう?ロザリアの精神波、彼女が変幻領域に出かける前と随分違う気がします」
「そうね。今回の事で彼女は随分成長したようね。何があったか。それは彼女に聞くのが一番じゃないかしら?」

 障子がひとりでに開き冷たい霊気が吹き込む。
 羽世羽がブルブルと身震いした。
「陽花宮の幽霊じゃないわ」
「霊の通り道位開けておいてくださらないこと?」
 幽冥の声と共に幽霊少女は姿を現した。顔の形にくり抜かれたカボチャを抱えている。
「いつの間にやって来たのかしら?」
「レイチェル、どこにいたの?」
「私、目覚めると知らない部屋にいましたわ。それでそこらをうろうろ浮遊していたら冥王様の反応を見つけましたの。このカボチャは途中で見つけましたの。この冥界カボチャもここに迷い込んでいたなんて。随分と縮んでしまってますけど。それにしてもこのお城、私には明るすぎますわ。存在を保つのにとても苦労しますわ」
 そのわりにはよく喋っているようだ。
「何やらみなさん楽しそうで。いつの間に仲良くなりましたの?私の最後の記憶では戦争中だったと思うのですけど?」
「あなたも座りなさいな」
「それじゃあ……あ!あなた。私のお人形さん」
 レイチェルはアーニャに気付いて嬉しそうに言った。
「あの続きをやるつもり?」
 セーニャが静かな殺気を幽霊に放つ。
「喜んで、と言いたいところですがそれはまた今度にいたしますわ。私、少し休ませてもらいますわ」
 そう言うが早いか、レイチェルはご馳走が並んだ〝無限に食べられる物、出瑠〟の下にできた影の領域に潜り込んでしまった。
「どこにでも潜るのね」

「冥界には食べ物の情報が少ないの?」
「ええ、私の冥界を訪れる者はなかなか食べ物に意識が向かない。なぜなら、私の冥界では肉体と意識の境界が曖昧で食べ物への執着も薄れるから。調べようと思えば調べることはできるけど、私自身その……今まで、お菓子にしか興味が無かったから」
「あなたの冥界って事は、他にも冥界があるの?」
 羽世羽が冥王に質問した。
「あるわよ。なんといっても宇宙は無限だから。食べ物への強い執着に囚われた幽霊だらけの冥界も覗いたことがあるわ」
「今度は私の冥界にいらっしゃい。歓迎するわ」
「ええ、皆で遊びに行かせてもらうわ」
「私は……やめておきます」
 そう拒否したのは羽世羽だ。
 そのとき——光にあてられてテーブルの下でうずくまっていたレイチェルがにゅっと顔を出し、目をキラキラさせながら、
「冥界にいらしたときにはぜひ私の設定した恐怖の館脱出ゲームで遊んでもらいたいですわ」
「遠隔体を使ってならいいわよ」
 アーニャが答えた。このふたりもなかなか気が合うみたいね。
「あら、画面越しで遊ぶなんて怖いんですのね?ま、当然の事ですけれど」
「違うわ。直接行くのが面倒なだけ」
「本当かしら?」

 温泉花!
 誕生会の後私は冥界一行を温泉花の露天風呂に招待した。満天の星空に冥界の月。
 ゆずと冥界カボチャがいくつも浮かんでいる。いつの間にか冥界カボチャは陽花宮になじみ、さらに増殖も覚えたようだ。思わぬ外来種にゆずの戸惑いが伝わってくる。みんなで一列になって空を見上げた。陽花宮の創造主とハヤブサと宇宙戦闘機と書庫管理人、そして、冥界の王と死神と幽霊は、仲良く肩を並べた。
「ああ、天国天国」
 羽世羽が私の右隣で伸びをした。
「私初めて」
 羽世羽の横でロザリアが言った。
 アーニャはロザリアの隣で無言で肩まで浸かっている。アーニャは恥ずかしがり屋さんだったわね。
「ねえルシア?冥界には露天風呂はあるの?」
 私が左隣の冥王に尋ねると、
「いや、私たちも初めてね、この露天風呂とやらは。なかなかに良いものだと思う。冥界にあっても悪くない……そうは思わないか夜輝?」
「ええ、思います……あれ、レイチェルは?」
 夜輝の隣にいたはずの幽霊が消えていた。
「ここですわよ」
 夜輝の背後からザバーっと現れたレイチェル。ぬっと白い手を伸ばして彼女の胸を掴む。
「や、やめろおお!!!」
 暴れる夜輝。お湯しぶきが飛び散る。
「夜輝、あなたとっても良い成長具合ですわね」
「放せこの変態幽霊!!!」
「それはわたくしにとって褒め言葉ですわよ。オホホホホホホ……」

 私は夜輝とふたりだけで星空の見える白いバルコニーにいた。雲ひとつ無い夜空には無数の星の光がまたたいている。
 体内の温度調節機能のおかげで寒さは感じないが吐く息は白い。試しに調節機能を停止してみた。寒気が肌を刺す。もうすぐ雪が降るだろう。
 ふたり並んで立つと夜輝のほうが頭ひとつ分、私より背が高かった。
「ロザリア?」
「なぁに夜輝?」
「今は二人だけだよ」
「そうね……」
「覚えてる?」
「……うん」
 記憶された形体情報を呼び出す。変身を実行——
 私は制服姿の黒髪の少女になっていた。隣を見ると同じ制服を着た少女がいた。
「……鈴」
「……鮮花」
 私は変身して背が伸びた。一方、鈴は伸びていない。私は彼女の身長にほぼ並んだ。でも、一センチだけ彼女のほうが高かった。
「ねえ、鮮花?」
 鈴が真剣な表情で私の目を見つめながら聞いた。
「なぁに鈴?」
 私も彼女の目を見つめ返しながら応じた。
「このままふたりだけで行かない?」
「どこへ?」
「さあ、それはまだ決めてない。だけど、ずっとずっと遠くの異次元へ」
「帰れなくなるかもよ」
「うん」
「え?まさか、それって……もう帰らないってこと?」
「そう」
「わ、私は……」
 突然の誘いに言葉が続かない……
 すると彼女が、
「冗談だよ。まさか本気にした?」
 鈴は笑い出した。
「私は冥界の死神、夜輝。そしてロザリアは陽花宮の宇宙戦闘機なんだから」
「そ、そうよ、そんな事わかってるわ。当たり前じゃない」
 鈴はまだ笑っている。私はそんな彼女の横顔を呆然と見つめた。
 そんな私を見て彼女は笑うのを止め、
「だけどね……今は鈴と鮮花だよ」
 そう言うと鈴は私の肩を抱き寄せた。私は自分の頭を彼女の肩の上に預ける。
 気付けば寒さは感じない。温度調節機能は停止したままであった。
「……あそこ行きたかったな」
 ふと、私は呟いた。
「え?」
「クリスマスタウン。行きたかったな、って」
「そうだね、私も行きたかった」

「そうだ、あれ持ってる?」
「持ってる」
「ずっと持ってた?」
「ずっと持ってた」
「交換しない?」
「いいよ」

「あ、雪だ」
「ほんとだ」
 空からちらほらと雪が舞い降り始めていた。
「二回目の雪」
 雪は少しして止んだ。後でわかった事だが、この一時の雪を目撃したのは私たちふたりだけだった。

 ロザリアの誕生会が終わると冥界の一行は帰り支度をした。二階建ての家ほどもある漆黒の馬車が彼女たちを迎えにやって来た。二十頭の亡霊馬たちがそれを引っ張っている。フード付きの黒ローブの御者が亡霊馬たちのたずなを操っている。御者がこちらを向くとフードの中には顔が無かった。そこにはただ闇だけが広がっていた。別れ際、冥界と陽花宮の間で親交の標である贈り物の交換をした。
 ルシアは陽花宮の食べ物を大変気に入ったのでレシピデータを教えて上げた。ウグイス餅ッピもあげようかと思ったが羽世羽が頑なに拒否するので諦めた。
 冥界から贈られたのはたくさんの冥界クッキー。それと〝ミュリーネア〟というスノードーム。冥界の専門語で〝忘れられし都〟このアイテムはドームの中に雪の都市が入っていて、それがそのままひとつの世界になっているという。ミニチュア版死者の都市と言ったところだろうか。
 冥王様御一行が馬車で死者の月に戻ると月は現れたときと同じ様に緑の閃光を放って消え去った。

   Ⅱ

 冥界への帰り道。死神とその主
 馬車が陽花宮からゆっくり離れて冥界の月へ向かう。こうやって時間をかけて移動するのも良いものである。
 馬車は陽花宮の生命感溢れる夜の面を通って、しだいに冥界の月の死の闇の領域に近付いていた。
 私は冥王に相応しい馬車の中心にある荘厳な専用席に座って思いにふけっていた。
 目の前のテーブルに置かれた湯気の上がる冥界の真っ赤な紅茶、ブラッドティーの入ったカップに霊魂砂糖をスプーン三杯入れてかき混ぜた。静かにそれを口元に運ぶ。
 
 隣の席に座っていた夜輝が言いづらそうに口を開いた。
「ごめんなさいルシア様……護符失ってしまいました」
 夜輝は私があげたアミュレットが壊れた事を気にしているようだ。
「護符とはそういう物よ。あなたの身代わりに失われたの」
 そうは言ったものの内心、とある考えが巡っていた。
 私の作った護符が壊れるなんて……
 護符の強さは、それの製作者の能力も大事だがそれ以上に重要なものは所持者の信仰心である。
 夜輝は私を崇拝している。今もその感情が伝わってきている。
 しかし、彼女が変幻領域に飲み込まれた際、一時的にではあるが人間になっていた彼女は私に対する信仰心が薄らいでいたのだ。それが彼女にどういう影響を与えるかはこれから様子を見ることにしよう。そしてもうひとつ——
「それにあなたは代わりの大切なものを得たじゃない」
「まあそうですね」
 夜輝は上着のポケットから小さなガラスの赤い星を取り出して眺めた。その星からは彼女とは違う心霊波の波長を感じた。私はそれに心霊触手を伸ばしかけたが……止めた。代わりに彼女に言葉を掛けた。
「好きなときに行っていいから」
「え?……あ、はい、ありがとうございます」
 私は〝行っていいから〟という自分が発した言葉に内心で驚いた。
 この言葉はいったいどういう意味なのか。単に、会いに行く許可を出したつもりだったのだが……本当にそうなのだろうか?
 それとも、彼女を手放す時が来たということでは——
 その時、天井から、ぬうっと逆さまの幽霊が姿を現れて私の思考は遮られた。
「油断してたら驚いたじゃない、レイチェル」
 私は無表情で言った。
「全然驚いた様子には見えませんわ、ルシア様」
 陽花宮の明るい雰囲気に参ったレイチェルは馬車の二階にあるベッドで休んでいたが、馬車が月の闇の領域に入ったので元気が回復したらしい。
「夜輝、あなた何があったのですか?」
 レイチェルは夜輝に向かって訝しげに質問した。そういえば、レイチェルはこういう事に敏感だったわ。
「え?」
「何かどことなく雰囲気が変わった気がしますの。しいて言うなら……微妙に死神らしくない、とでも言いましょうか」
 
「そんな事無いわ」
「そう?あ、わかりましたわ。手に入れたい魂でも見つかったのではなくて?」
「まあ、そんなところよ」
 レイチェルは、くすくすと微笑しながら夜輝に詰め寄った。
「私に詳しく教えなさいな」
「秘密よ」
 夜輝は星をポケットに仕舞った。

   Ⅲ

 量子はあらゆる場所に偏在しています。それはあらゆる場所に全てが存在しているという事。全てのものに神は宿る。
「ただ願えばいいの、幸せが続くとことをね」
 時には答えが見つからない事もある。そんな時はあえてやろうとしないで待てばいい。自然に任せればおのずと答えは姿を現します。
「巡り巡って実りの時期は必ず来ます。永劫回帰です。時間に縛られない世界ではなおさら簡単に。だから、間に合わないなんて事はないのよ。手遅れはないの。いざとなれば時を戻してしまえばいい」
「それに慣れすぎると目的を失うからよ。戻ってやり直して戻ってやり直して……そしてこう思う。その繰り返しに何か意味があるのかと。もしもゲームの登場人物がセーブ&ロードを知っていたら本気でラスボスを倒す気になるかしら?クリアしたらまた最初に戻ると知ったらどう思うかしら?」
「意味を見出せるならそうすればいい。すべては本来自由なのだから」
「戻らなくても今を望む形にしてしまえばいい。結局同じ事かもしれないけれど後悔や落胆からの戻らなくてはという強迫観念からは解放されたわ」
 すべてのものは振動でできている。振動は量子とも呼ぶ。振動の違いは色の違い、音の違い、感情の違いなどの異なった性質の概念を作り出す。ものとものとの境界、形も振動の違いから生まれる。形成された概念は集まってさらに大きな概念を作る。例えば人や物。それはさらに集まってもっと大きな世界を作る。そしてその世界、次元の無限の集合体が多次元宇宙である。
「どこかの次元から集まったオーパーツの山はどうしましょうか?」
「量子データ化して保存しておきましょう」

「近くないですか?」
「私たちが認識したからそう思えるのよ」
「じゃ、じゃあ最初からあれはあそこにあったと言うんですか?」
「そうとも言えるわね」
「意外」
 そう言うロザリアは嬉しそうだ。
「なんでロザリアは笑ってるのさー?」
「秘密よ」
「見たくないなら羽世羽、あなたの認識から外してしまいなさい。望まぬならやがて月は薄れていくでしょう」
「私が記憶をしまってあげようか?」
 そう言ったのはアーニャである。羽世羽の頭の中をいじくり回したくてうずうずしている、といった様子だ。
「い、いいわよ。そこまでしなくても」

 新たに夜空に発見された青白い冥界の月に向かって初めてのお月見をしている。
 場所は空見の庭。周囲を柳の木で囲まれた中庭である。満天の星空の中心に浮かぶ禍々しい月。これはこれで中々、おもむき深いものである。この行事は陽花宮の〝第二のお月見〟となった。死者の月は望む者だけに見る事ができたので、月が見えない者は〝何も無い日のお祭り騒ぎ〟と呼んだ。
 皆、おそろいの赤い着物を着てお団子を食べている。
「私が一番イスカ様と似てる着物ー」
「私だよ」
 とロザリア。
「私よ」
 とアーニャまで。
「みんな同じよ」
 三人とも私の真似をするのが大好きだ。三人の中では羽世羽が一番年長のお姉さんだが、それと同時に一番私に甘えてくる存在でもある。彼女はずっと昔からくっつき鳥であった。そんな彼女を私は微笑ましく思う。

「ロザリア花火しよう」
 アーニャが立ち上がってロザリアに言う。
「花火って何?」
「私が教えてあげる」
「死者の月の下で線香花火……それって皮肉?それとも祝福?」
「さあ?私たちもやりましょうか」
「そうですね」
 四人で線香花火を始めた。
 羽世羽が思念で話し掛けてきた。私と彼女だけの専用回線で他の誰にも聞かれる事はない。

「ロザリアはなんで感染に強い耐性があるんです?」
「救出した知性自体も変幻物質が入り込んでいたわ。そのおかげであの影響吸収能力を与える事ができたの」
「私は大きな勘違いをしていたわ。擬態能力はウイルスが持つ能力だと思ってたの。そうではなくて変幻物質がウイルスを擬態していたのね。変幻物質に接触してそれを取り込んだ艦は変幻領域が持っていたウイルスの性質とも一体になったのね。ロザリアから報告を聞いてようやく解ったわ。探査艦のAIがどうしてあれほど強いウイルス耐性を持っていたのか。変幻物質はウイルスでもありながらアンナという女性のウイルス耐性の心も持っていたのよ。それが探査艦を守りながら一体化して、今やロザリアとも一緒になったのよ。最終的に変幻領域を全て取り込んだロザリアは途方もない力を内に秘めているわ。破壊の力と治癒の力を同時に持っている」
「イスカ様は病気の探査船に入りました。イスカ様もトリニュオンを取り込んだんですか?」
「そうなるわね。まあ私は特別だから気にも留めてなかったわ。私にとっては制御するのは息するのと一緒だから。暴走なんて夢のまた夢よ」

「彼女の中に変幻領域はすべて格納された。もう安心ですよね?でも狂気も含んでましたよね。もし彼女が暴走したら……」
「そうしたらみんなロザリアに飲みこまちやうかもね」
「そんなあ」
「私たちがいるから大丈夫よ。トリニュオンが暴走する条件は怒りや狂気といった感情らしいから。異世界にも彼女の味方がいるし、ロザリア自身の心も強いから彼女が絶望や狂気に支配されることはないわよ」
「それなら何重にも安心ですね」
「それにしてもどうしてトリニュオンは病気として現れたんでしょう?誰が陽花宮の破壊を思ったんでしょう?冥界のせいでしょうか」
「案外私だったりして!なーんてね冗談」
「な、何言い出すんですか。イスカ様がどうして陽花宮を破壊するんですか!」
「だから冗談だって冗談よ!はははは」
 羽世羽との思念の会話を終えた。

 そう、破壊の意志の出所は私だ。
 私が陽花宮の終わりを望んだんだ。ロザリアからトリニュオンの性質を聞いてそうだと確信した。
 誰にも言っていない。誰にも言えない。
 私が昔を思い出したから。昔の記憶。私が昔に戻りたいと思ったから。あの子に逢いたいと望んだからだ。陽花宮が邪魔だと思ってしまったから。
 だからトリニュオンは純粋に自身の性質に従い、記憶済みの死の病気に変身したのだ。
 トリニュオンがウイルスに変わったの私が帰還した調査船に近づいたから。私の心があの場に居合わせた誰よりも強かったから。
 調査船が回収した時点ではトリニュオンはウイルスでは無かった。単にウイルスの情報も記録していたに過ぎない。最初はなんだったのか?それは私にはわからない。その後トリニュオンは探査船をコピーして記録し、一体化したのだ。低い自我しか持たない探査船は〝自分は探査船である〟という思いが最も強い思いだった。だからトリニュオンは探査船に化けたのだ。
 冥界が陽花宮に近づくのに気付かないままだったのも無意識に私自身が冥界に意識を向けないようにしていたのだろう。
 侵略されればいいって心の何処かで思っていたのね……
 だが同時に今の生活を守りたい思いもあった。それが今回は勝った。だけど、もし次に同じような事が起きて破壊の意志のほうが勝ったら?

「雪だ!雪だ!」
 ロザリアの驚いた声で私の心の葛藤は吹っ飛んだ。
「ロザリアは雪初めてよね?なのにどうして雪だって分かったの?」
「初めてじゃないよ」
「ふーん」
「イスカ様、これが初雪ですよね?」
「ええ、ロザリアが生まれてから雪を降らしたのは今が初めてよ」
「え、でも私見たよ」
「そう、じゃあそれは私たちには見えないあなたの、いえ、あなたとあの子だけの特別な雪ね」
「不可視の雪使いロザリアかぁ……」

 今日はみんな一緒に寝ましょう。この四人で寝るのは初めてのことである。窓の外では雪が深々と降っている。
「そういえばずっと寝るのを忘れていたわね。最後に眠ったのは前兆が起こり始めた頃だったわ。みんなはどう?」
「私はイスカ様に寝かしつけてもらったのが最後です。最近はずっと起きてましたね」
「私は自分で圧縮して眠っていたわ」
「私はいっぱい眠りました」
「寝る子はよく育つものよ」
「みんな、よく頑張ってくれたわ。もしかして私がいなくても陽花宮は大丈夫だったりして?」
「そんなわけありませんから!あそこで戻ってきてくれなかったら今頃ここはゾンビや吸血鬼の住処ですよ。もう二度と勝手に出て行かないでください」
「わかったわ羽世羽」
「約束してください」
「うん約束」

 ロザリアが小さな緑の星を天井で光る神、〝部屋を照らすもの、啓光橙〟に向けてかざした。キラキラと輝く。
「ロザリア、その星何?」
 羽世羽が興味深そうに聞いた。
「秘密」
「また秘密なの?秘密多すぎるよー」
「みんなおやすみ」
「おやすみなさい」

 私の一日がようやく終わりを告げた。
 雪の帳が陽花宮を覆い戦いの傷跡は跡形もなく消える。そして春の雪融けと共に満開の花を咲かせることでしょう。
 一時の騒乱と新たな出会いは落ち着きを見せ再び平穏な日々が長く続く事でしょう。一時の騒乱は永遠の平穏に加えられた贈り物。幸せが何かを忘れないための贈り物。それが私たち、時間を降りた存在の生き方なのです。今日という夢は終わり明日という夢が始まるその時まで私たちは眠り続けましょう。
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神話宇宙少女 光と闇の輪 時から降りた神々の物語 第4章 図書館

第4章 図書館


   Ⅰ

 私は寝室で着替えをしている。今まで着ていた白黒白の三重の着物のうち、白黒を脱ぐと、代わりにオレンジ色の地に赤いコスモス模様の着物を着て、金の帯を締めた。着替えが終わると……
「イスカ様!ヒマワリが枯れました」
 元気な声と共に居間に通じる襖が開いて羽世羽が現れた。
 彼女が両手に抱えているのは黄色い鉢。その中には、元気に咲いていたはずの永遠ヒマワリが萎れて茶色くなっていた。
「こんなことは陽花宮では随分と起きていないわね」
「昔も枯れたことがあったんですか?」
「ええ、私が花に永遠の概念を付加する前は枯れるのが当たり前だったの。そう考えると少し懐かしい気もするわ」
「そういえば、私が再誕する前は枯れてましたね。私も懐かしいです」
「でもやっぱり、元気な姿のほうがいいです」
「安心して」
 私は萎れたヒマワリの花びらに触れた。そして精神波でヒマワリに語り掛ける。
 ——時は永遠。過去の姿に巻き直しましょう。私はあなたの太陽よ——
 みるみるうちに、葉と茎に瑞々しい緑が戻り、俯いていた花はすっくと前を——私の方を向いた。

 日中の光の中で、私は羽世羽と空中縁側に腰掛けていた。空中縁側とは、その名の通り、居間の縁側を空中に面した場所に移動したものだ。足元には、遥か下に陽花宮の綺麗な黄色い花びらたちが広がっている。現在、陽花宮はオニアザミの姿になっていた。黒い始祖鳥の群れがオニアザミの表面近くを飛行しているのが見える。彼らはあまり飛ぶのが上手くないから、高くは飛行できない。
 私は裸足のままの足を空中にブラブラと揺らした。左にいる羽世羽がそれを真似る。
 ヒューと風が素足の周りを駆け抜けてゆく。とても気持ちが良い。
 ふたりで不死みかんを食べながら。
 不死果物は、果樹園花で育って収穫された果物だ。見た目や味は普通のリンゴやミカンや桃と変わらない。それら不死果実の元の果物は、私が陽花宮の外の世界から持ち込んだものだ。私はそれに不老不死の概念を付加しただけである。なぜなら、元の果物の形や味は既に完成されたデザインであるからだ。それらの設計者の業には感嘆のため息が出る。不死果物は信じる者にのみ不老不死の効果を発揮する。不老不死を信じない者にとっては、ただの果物に過ぎない。
 私は不死果物を創る前から不老不死だったが、羽世羽に食べさせて彼女も不老不死にするついでに一緒に食べるようになっていた。なんたって美味しい事には変わらないからだ。羽世羽もとっくの昔に食べなくても不老不死を維持できるようになっている。よって、私たちが不死果物を食べるのは単純に味や食感を楽しむ為である。
 老化や死は時間と肉体という幻想に縛られた者たちの概念であり、時間から降りた神々の世界では意味を成さない。真の死とは肉体の消失を意味するものではなく存在の消失。つまりは誰からも忘れ去られた状態を意味する。
「命名ゲームをしましょう」
「そうしましょう」
「言葉は新たに創り出すものです。既存の言葉に囚われていては発展はあり得ません。新しいものや、すでにあるものに新規の名前を付けたり、すでにある名前や言い回しに新たな意味を当てはめてみたり、ふたつの言葉の意味を取り替えてみたり、わざと読みや使い方を間違えてみたり、文字自体の形を変えてみたり……とまあ、前置きはこのくらいにして始めましょう」
「新しい迷信を考えました」
 羽世羽がさっそく考えたようだ。
「聞かせて聞かせて!」
 羽世羽は縁側から空中に向かって歩き出した。空中を、滑るようなステップで移動する。ワンピースのスカートと白銀色の髪の毛が風になびく。キラキラと輝く白銀色の光の粒子を振りまきながら。
「空魚が跳ねると雨が降る」
 羽世羽が迷信を唱えると、ちょうど窓のすぐ外で青く細長い空魚が跳ねた。直後に雲行きが怪しくなり、やがて、ポツ、ポツ、と雨が降り出した。
「今度はイスカ様の番ですよ」
「そうね……目隠しするとおとなしくなる」
「もう、それは鳥の習性じゃないですか——て、なんか視界が暗くなってきたじゃないですか!」
「そうだったわね。それじゃあ……不動ぞり」
「何ですかそれは?」
「その名の通り、どんなつるつるな面でも滑らないそりよ」
「なんの役に立つんですか?」
「それは考えてないわ。考える権利をあなたに寄付するわ」
「えー」
「雨が降ってきたので廊下で考えてきます」
 羽世羽は縁側の右側の壁にある、廊下へと続く襖へ向かった。
「あ!」
 襖を開けた羽世羽が叫んだ。
「イスカ様!廊下が違います!」
「空間の繋がりが一定でないのはそう珍しい事じゃないわよ」
 私はそう言いながら羽世羽の後ろに立った。
「これでもですか?」
 廊下はまさに異界の様相を呈していた。朽ちて所々口を開く木の廊下。破れた障子や襖が並んで奥の闇に消えていた。空気がよどみ、じっと見つめていると空間が周囲から迫ってこようかという威圧感に襲われる。いつもの陽光あふれる陽花宮はどこへやら。
「お化けでもでそう……って、私が低級妖怪なんかに怯えるのは変か」
「そうかしら?上位の精神的実体である私たちのような神とて、油断してると木の葉一枚に驚かされる場合だってあるものよ」
「どうしましょう?この廊下」
「何にでも学べることはあるわ」
 私は縁側の反対側の壁際の棚に向かい、その上にある十センチ四方ほどの手のひらサイズの小箱を手に取る。桜の花柄の装飾がなされている。
フタを開けて、何も入っていないことを確認するとフタを閉じた。数秒たってから、もう一度フタを開けると、そこには剥き出しの眼球がたくさん——を思わせる直径三センチほどの天眼石がたくさん入っていた。
 陽花宮の保管庫、財宝花には様々な道具が圧縮データ化され保存されている。創主である私を始めとした資格(アクセスコード)保持者はそこから必要に応じた道具をダウンロードして使用することが出来る。
 天眼石を転がしてみた。眼がくるくると回りある方向を指し示して停止した。石の眼球は闇の廊下を指していた。
「あっちは今は太陽の反対側でもあるわね。闇に気を付けなさい。影から来るものに」
「少し廊下を歩きましょうか」
 私は立ち上がると闇の廊下に足を踏み入れた。羽世羽は恐る恐る私の後についてくる。
 私が歩き出すとすぐに廊下に変化が始まった。障子の向うから陽の光が差し込み、廊下を明るく照らした。障子の破れはいつの間にか塞がり、同様に床板に開いた穴も消えた。いつもの陽花宮の明るい雰囲気に戻った。
「やっぱりイスカ様がいると安心ですね」
「ありがとう」

 温泉花で羽世羽の水浴び……否、お湯浴びを眺める。鳥の姿になったり、人の姿になったり、安定しない。
 羽世羽は昔から水浴びが大好きな小鳥だった。コップで水浴びして溺れそうになっていた頃を思い出し、笑いがこみあげてくる。

 当たり前だが人の姿になったからといって力を失って人間になるわけではない。神は姿を変えることができる場合が多いので、神の姿といっても伝わりにくい。便宜上わかりやすく人の姿や鳥の姿と称しているだけである。人間も、その創造者が自らに似せて創ったと聞いたことがある。そういう意味では姿など、本来なんの意味も持たないのかもしれない……

 不死の霊水は始原花から湧き出し、陽花宮全体を循環している。果樹園花の不死果物もこの水で育つ。温泉花のお湯もこの霊水からなる。
「イスカ様も一緒に水浴びしましょう」
「私は——」
 お風呂で体を洗う必要は無い。私も羽世羽も、あらゆる損傷は精神力により無意識レベルで自己修復する。よって、常に肌は艶やかであり、汚れとは無縁の関係である。
 だから、お風呂に入るのは純粋に楽しむ為である。
 私は気付けば夢中ではしゃいでいた。
 仰向けに浮かびながら考え事をする。桜の花びらが漂っている。
 ロザリアの存在を感じられない。彼女はすでに存在しないのか……そんなはずはない。私がそれを自分に許可しない。
 彼女はどこにいるのか……私の想像もつかない異次元に飛ばされてしまったのだろうか……。
 湯船の白い大理石の壁に背を預け、足を伸ばして肩までつかる。昔からこうやってあたたまりながら瞑想にふけると迷いが消え、答えが思い浮かんでくるものだった。
 しかし、浮かんでくるのが望む答えではない場合もある。それは——
 何を悩んでいる。それでは、まるで人間のようだぞ。ロザリアのことなど忘れてしまえばいい。また別のを創ればいいことだ。お前にはその能力と全てを切り捨てる覚悟があるはずだ。それに……別にこれが初めてというわけでもなかろう?
 ——やめてやめてやめてやめてやめて!
 深層から浮上してきた内なる狂気の声を打ち消した。
 
   Ⅱ

 私は創造主イスカ様の部屋にいた。宮内が変幻騒動に混乱する中、彼女の部屋はいたって平穏のままだった。それは、彼女が影響を受けない強い精神力を有していることの証明だ。別名〝安心の部屋〟と呼ばれるこの場所にいると、まさにその名の通り、彼女に包まれて守られているのを実感できる。騒動の中ではそれがより際立っている。外部の混乱が嘘のようだ。
 私とイスカ様は〝始祖〟とよばれるカードゲームをしていた。魔法を使ったり生物を召喚したりして戦うのだ。イスカ様曰く〝始祖〟は異次元で誕生した最古のカードゲームらしい。〝始祖〟というのはここでの呼び名で本当の名前があるらしいが、イスカ様はあまりそのことについては触れられたくないようだ。イスカ様の生まれ故郷に関係があようだが、私は深く詮索するほど無粋な真似はしない。イスカ様はデッキと呼ばれるカードの束を沢山持っている。私も沢山もらって、今ではオリジナルのデッキを組むことができるようになった。
 いつものように遊んでいると、
「あのね羽世羽……ロザリアの精神波が感じられなくなったわ」
 唐突に、イスカ様が俯いてカードを触りながら言った。
「え?それじゃ彼女は……」
「いえいえ、まだわからないわ。変幻領域は元々感知能力が鈍る場所だから」
 そうは言っているが、イスカ様の声は僅かばかり震えていた。
 なんか、部屋が心なしか狭くなっている気がするような……いや、気のせいじゃない!本当に狭くなってる!イスカ様の部屋の十二畳ある畳が十畳になっている……と思ったら今度は八畳になってる!意識を数えるのに向けた瞬間、減ってる……って今度は六畳だ!
「イスカ様!部屋が縮んでますよ!」
「え!?あ、本当だ!ごめんなさい、気が抜けていたわ」
 次の瞬間には元通りの十二畳に戻っていた。
 彼女の手が私の頭を触った。髪で遊ぶその指先からも不安が伝わってきた。
 私がロザリアを感知できなくなってもイスカ様はロザリアを感じ続けていた。この陽花宮でイスカ様ほど精神波感知能力の優れた方はいない。それに、感知能力は互いの心の結びつきが強ければ強いほど高まる。ロザリアと最も結びつきの強いイスカ様が感じられなくなったのだ。ロザリアに何かあったに違いない。けれども、私の口を飛び出したのは悲観的な言葉ではなかった。
「心配ありませんよ」
「え?」
 イスカ様は顔を上げた。
「ロザリアは必ず帰ってきます。私には自信がないけれどイスカ様が信じて彼女を送り出したんです。彼女と自分を信じてください」
 イスカ様はいつも私を安心させてくれる。今は私が彼女をどうしても安心させてあげたかった。
「ありがとう羽世羽。自分に自信がない創造神なんて聞いたことないわよね。私、創造神失格ね」
 彼女の顔に笑顔が戻った。
「そんなことないです。たまには弱さも見せてください」
「フフフ……それじゃあ待ちましょうか。いいアイデアが浮かぶまで。自然に任せましょう」
「自然にですか?」
「心の喧騒は真実を覆い隠し、粛々たる世界にこそ真実の宝はその御身を現す」
 イスカ様はお話を始めた。

「昔々、ここでない何処かの異次元。一匹の大きな竜がいました。ある時、竜は噂を聞きました。どこかに宝物でできた大きな山があるとの話でした。金銀財宝は当たり前、世にも珍しい魔法の道具や武器で溢れているとのことです。大きな竜はすぐさま、その山を探す冒険に旅立ちました。冒険の旅は長く険しいものでした。同じ噂を聞きつけて宝の山を求める幾多の他の竜や人間の冒険者との戦いの連続でした。けれども、大きな竜はそれらの戦いに全て勝利しました。気付くと、竜の持ち物は戦利品の武器や防具や魔道書などでいっぱいになっていました。でも、肝心の宝の山は行けども行けども見つかりませんでした。ついに竜は疲れ果ててしまい、休もうと考えました。竜は平原を見つけると舞い降りました。あまりに疲れていたので、竜はすぐさま眠りにつきました。そして、長い長い眠りが始まりました。竜は眠っている間に自分の宝物が盗まれないようにするため、魔法の生物や機械を番人として召喚しました。
 眠りが長すぎて、竜の体はやがて土で覆われ、さらにそこには木々が生えて森になりました。一見すると山と見分けがつきませんでした。
さらに長い年月が過ぎても竜は眠り続けました。その間に、宝物を狙った盗賊と番人との間に数多の物語が生まれました。倒された盗賊の落とした物が竜の宝物に加わっていきました。人々は竜を〝宝の山〟と呼び、そこに溢れる財宝を求めて危険な冒険を繰り返しました。
竜は今でも眠っているそうです。宝で溢れる山の夢を見続けながら……」
 イスカ様はお話が終わると自分自身に言い聞かせるように言いました。
「求める答えは案外すでに持っているものよ。それに気付けるか気付けないかの差だけ」

 イスカ様の寝室から出て居間に移動した私は、イスカ様と自分の分のお茶をいれることにした。
 座布団に座った私は、部屋の隅にある戸棚に向かってパチンッと両手のひらを叩いて鳴らした。戸棚がひとりでに開いて、中から金の茶釜を乗せた、同じく金のまるっこい風炉が顔を覗かせる。風炉は自力で戸棚から出ると、下部の付いた四つの車輪で自走して私に近付き、膝元で停止した。勝手に火が点いて、一分ほどで湯が沸いた。私は、新たに戸棚からやってきた金の急須にお茶の葉を入れると、沸いた湯をその中にそそいだ。一分ほど待ってから二つの金の茶碗にそそいだ。
いれたのは〝水薙ぎ〟という銘柄お茶の神様だ。苦味は少なく、ほのかに甘い。お菓子がなくても単体で飲めるお茶である。私もイスカ様もおそろいの甘党。苦いのはそろって苦手なのだ。いれ終えた私は、風炉を優しく撫でてやる。風炉たちは再び動き出して元の戸棚に戻っていった。私はイスカ様を呼ぼうと寝室の襖を開く。閉まっていたがすんなり開いた。開くのは彼女の心が入室を許可しているからだ。拒否している場合は例え何をしても開くことはない。爆弾が降ろうと巨大隕石の直撃だろうと開くことは絶対にない。
 イスカ様は窓辺にたたずんでいた。
 大きく開け放たれた窓から差し込むオレンジ色の夕陽が、彼女の美しい顔を照らしている。眼下には、オレンジ色の雲の群れが地平線の彼方まで続いている。彼女の長い黒髪が風に僅かにそよいでいる。
 憂いを含んだ瞳はどこか遠くを見つめているようだった。それも、私の思いも及ばぬ遥か遠くを……
 気付くと私は彼女の横顔に魅入られていた。その悠遠なまなざしに。
 この現実が永遠に続いて欲しいと思う。彼女の優しい笑顔を見ていたい。
 私が雛鳥だった時から、いつも彼女は私の側にいた。それは、私がまだ限りある命の小鳥だった頃の話。当時は彼女も今のような力を持たない人間だった。だけど、彼女は私に何物にも変えられない大きな愛を与えてくれた。私も精一杯それに応えたつもりだ。
 私の最初の命、限りある短い一生が終わる時にも彼女は側にいてくれた。その時に彼女が流した悲しみの涙を、私はいつまでも忘れることはない。
 再び彼女に出会えることだけを願って、私は安らかな眠りについた。願いは成就し、転生して神格化した私は、こうして今、彼女の側にいる。
 それは彼女と私の強い心の絆が叶えた必然……そこには嘘偽りの入り込む余地など存在しない。
 強い絆で結ばれた魂同士は、例え死を経由したとしても再び互いを引き付け合う。私は今が本当に幸せだ。

 時の制約から降りた私たちは不老不死だ。永遠は当たり前のはずだ。だけど、なぜだか儚く切ない気持ちになってくるときがある。
彼女がどこかに行ってしまうのではないかという不安に駆られる——
「どこにも、行かないわよ……」
 私の心を見透かした彼女の声に、ハッ!として我に帰った。
「そう、ですよね——」
 そう言って何気なく下を向いた瞬間、ドン!と体に何かがぶつかる衝撃が走った。
「大好き大好きよしよしよしよしー」
 イスカ様だ!
 正面から私にがっしり抱きついたイスカ様が右ほっぺたを私の右ほっぺたにくっつけてすりすりしてきた。
「わひゃああああ!!!」
「あはは変な声出た!」
「何心配してるのさ?、羽世羽らしくないよー」
「私があなたを置いてどこかへ行くわけないじゃない!私たちは運命共同体よ!逃がさないわよ、こちょこちょこちょこちょ……」
「わひゃひゃひゃひゃ——くすぐったい!やめてー!!!」
 私たちは床を転げまわった。

「そうだ、お茶、いれたの忘れていました。寝室で飲みますか?」
「そうするわ」
 私は居間から茶碗をふたつ取ってくるとひとつをイスカ様に差し出した。お茶は冷めることなく常に最適な温度に保たれている。
「ありがとう」
「どうしたんですか?」
「思い出していたのよ」
 何をとは聞かなかった。おそらくは昔のことだろう。
「寝てませんね。少し休んだらどうですか?大丈夫なのかもしれませんが」
「そうね、子守唄歌ってくれるかしら」
「もちろんです」
 イスカ様は布団に入った。私はその左傍らに両膝をついて、彼女がいつも歌ってくれる子守唄を真似して歌う。

 忘れないでいてね 自由な翼で空を飛ぶこと
 眠りなさい良い子よ 幸せな明日を夢に見ながら

 ふわぁーあ……なんかあくびが……私が眠くなってきたような気が……

   Ⅲ

 傍らで羽世羽が小さな寝息を立てて眠っている。彼女は自分で自分を寝かしつけたようだ。
 私は目を瞑り転移を開始する。向かったのは書庫花。
 転移を完了を確信し瞼を開くと、そこは薄暗く広大な空間。空中に浮かんだたくさんの蝋燭がオレンジ色の炎を灯し、空間をほのかに明るく照らしている。幻想的な炎たちだけがここで動く存在である。
「接続しますか?」
 右傍らから声が掛かる。
 見ると小柄な少女が無表情で見つめていた。
 彼女の名前は、アーニャ・アルメリア。
 ふんわりとウェーブのかかったピンク色の髪の毛をしている。その髪の顔の左右部分を赤いリボンを使って結んでいる。
 丈の長い白いワンピースの上に黒いローブを着用している。
 彼女は私が書庫花の管理を任せている少女だ。使用頻度の高い情報の整理整頓、無許可侵入者の監視と撃退、私の潜行時の補佐をするように設計した。とはいっても、ほとんどが自動で実行されるタスクである。
「アーニャ、万一帰れなくなった時は引き揚げをお願い」
「解ってます」
 そう一言返事すると少女は私の手を握った。
 「入り口を起動します」
 床の大理石の一部——私たちの手前の横五メートル、縦一メートルほどの範囲が発光し始めた。そして、その箇所がせり上がってくる。五メートルの高さまでせり出した大理石の石版。それの私たちに向いた面が輝きを放って揺らいだ。石の面が消え、代わりに白い水のような液体状に変わった。門が開いたのだ。
 門は、集合宇宙情報庫(オムニバースアーカイブ)に通じている。そこは集合宇宙全ての永遠の過去と未来永劫の情報が蓄積された場所だ。またあらゆる世界へと通じる道でもある。本来は書庫花の門を使わず振動化した私の意識のみで直接進入することも可能だが。簡単に入れるように目に見える門の形にして設置したのだ。これで私の他の者も楽に進入することができる。
 アーニャ自身は集合宇宙情報庫の表層から漁ってきた文字データの小説を読んだり、同じく釣ってきた箱庭ゲームをするのを何よりの楽しみにしている。表層といっても無限の本やゲームがあるので退屈する暇はない。そのせいか、彼女は書庫花からあまり出たがらない。
 アーニャ自体が入り口の起動スイッチになっている。彼女との接続は進入意味する。彼女は私の進入をサポートし、また入り口を守護する役目を持つ。
「ちょっとロザリアのところに行ってくるわね。羽世羽にはあなたから伝えておいてくれるかしら?」
「了解しました。お気をつけて」
 私は垂直な水面に向かって歩き出した。水面に体が触れると接続が始まり周囲の映像がゆらいでいく。私は目を閉じ、代わりに心眼を開いた。白い空間があった。ただただ、白いだけの、距離感などという概念は存在しない世界だった。
 光と共に巨大な白い本棚の列が高速で接近してきた。私の左右を高速で流れる。それを冷静に観測する。本棚の頂上は白くかすんで見えない。
同様に足元に続く本棚の底も白くかすんで見えない。まるで、どこまでも続いているかのようだ。もちろん、永遠に、無限に、続いている。
 集合宇宙情報庫の探索は資格を要する。資格とは強い精神力である。
未熟な精神力では接触に耐えられず崩壊発狂するか自身の忘却消失を招くか。そもそも精神力が低すぎてその存在すら認識できず接触すら不可能であるか。
 強い精神力の持ち主でさえ絶対安全の保障は存在しない。気を抜けば元へ戻れなくなり、さまよう者となるかもしれない。それもそれで楽しいと聞いたことがあるが、今の私は放浪の旅に出るつもりはない。陽花宮とそこに住まう神々を守る目的がある。私の定めた目的だ。
 ロザリアは私の事も自分自身の事も忘れ、変幻領域とつながるどこかの世界に囚われている可能性がある。私は彼女自体ではなく、その世界から彼女に接触を試みることができるかもしれない。
 感覚を研ぎ澄ませ、直感に任せる。
 誕生して間もないロザリアは思い出をあまり持っていない。彼女の身体である宇宙戦闘機としての情報は完全なものだが心の経験は浅い。そんな中で彼女がとりわけ興味をもったのは陽花宮ではなく、意外にも異次元世界——私の故郷だった。

「人間の性質はなんとなくわかりました」
「人間が好きになったわけではありませんが、その……少々興味が湧いてきました」
「そう……それなら私の昔の記憶の一部を見せてあげましょうか?」
「昔の?では、イスカ様は、かつて人間だったのですか?」
「ええ……遠い昔のことよ。あまり他者には教えないんだけど、興味を持ったあなただもの。黙っててもそのうちわかると思うから」
「この陽花宮の中にも地球から持ってきたものが結構あるから」
「地球?それが人間の住む異次元世界ですか」
「人間はいろんな異次元にいるわ。地球はその中のひとつ。かつて私が住んでいた世界よ」
「それじゃあ、映像記憶を見せてあげるから意識同調を開始しましょうか——」

 そして、私はロザリアに地球の様子を見せてあげた。
 特に、私の高校時代の生活を中心に断片的な記憶を見せてあげた。自分の過去を見せるのは正直恥ずかしかったが彼女は喜んでいた。人間の世界の習慣やテクノロジーも見せてあげた。
 〝地球〟という名の次元。随分と長い間、意識から遠ざかっていた世界だ。
 リザリアが興味を持った人間という生命体。人間——その奇妙な生命体の事を思い出す。
 人間は自らに制限を課し、限界を設定している。
 制限の種類は多岐にわたり、食べないと死ぬ設定、寿命という設定、死んだらおしまいという設定、お金という設定、などなど枚挙に暇がない。
 特に、目に見えるものだけを信じるという謎設定を好む。
 私に言わせれば、それはかなりのハードモードである。そのおかげで人間から存在を隠すのは簡単であるのだが。
 制限の限界に達すると、多くの人間は感情を爆発させて解決しようとするか諦めるということをする。
 特に感情の起伏が激しいのが人間の特徴だ。
 それゆえ、数多の愛憎劇が生まれることは必然であり、娯楽という副産物としての利点があるのもまた事実ではあるが。
 しかし私は、感情の爆発よりも静寂と平穏であり制限のない世界の方を選んだ。それゆえに、地球を捨ててきたのよ。

 ロザリアは地球にいる可能性がある。わずかでも可能性がある限り、それは現実となりえる。異次元への門の中、集合宇宙情報庫はそういう場所なのだ。
 特に探さなくても目的の場所に辿り着くことができる。彼女が地球を見たいと望めば地球へ向かう可能性が高くなる。
 ロザリアは強い精神力を持っている。強い精神力は例え異次元の入り口と接触しても、その場に留まろうという意志が強く働く。彼女が全く見知らぬ世界に行ってしまう可能性は低いのではないだろうか?そんな彼女を引き込むほど強力な異次元の門なら彼女が見たいと望む場所では?
 なんにせよ、私が導き出せる予測の中で一番ロザリアがいる可能性が高い場所は、私の見せた記憶の世界、地球だ。
 思い立ったら確認せずにはいられない性分は昔から変わらないわね。
 ロザリアが人間の影響を受けすぎるのは好ましくなかったから、彼女に映像を見せるのは少し躊躇した。だけど、今はそれが彼女を探す手がかりになっている。
 結果的には良かったのね。

 地層が目の前に現れ、ゆっくりと流れ落ちてゆく。木の葉の化石が所々に認められる。ブナの葉、樫の葉、楓の葉などの化石たちだ。
 それらが前触れなく赤や黄色に色付くと、たった今散ったばかりとしか思えない落葉へと変貌した。時間が巻き戻った葉の群れは、滝のように地層から噴出し、私の視界を覆い隠した。

 気付くと私は地球の棚の前にいることに気付いた。
 日本、富士山、地球温暖化……懐かしい言葉が書かれた背表紙の本が目に留まる。
 何者かの声が意識に語り掛けてきた。
 ——あなたがここへ来るのは珍しいわね——
 その声には揺り籠のような懐かしさと温かさがこもっていた。昔の記憶が蘇ってきた。
「あなた——もしかしてガイア様?」
 ——ええそうよ、イスカ様——
 お互い様付けなのは昔そう呼び合っていた。いわば愛称的なものである。
 目の前に黄色い光が集まっていく。
 私は一度まばたきした。目の前には、たおやかな雰囲気を伴ったひとりの少女がたたずんでいた。外見年齢は一八歳くらい。
 大海を思わせる青い瞳と自然の象徴のようなエメラルドグリーンの髪。光を纏った幾重にも重なる黄緑の衣には樹木を思わせる神秘的な模様が入っている。
 昔と思ったばかりだが、ついさっき会ったばかりにも思える。
「時間は幻想に過ぎないからね」
 私の心を読み取った彼女が言った。
「そうね」
 私はガイア様に抱きついた。
「おかえりなさい」
 彼女は私を優しく抱きとめた。彼女からは地球の新鮮な空気の香りがする。
「ただいま」
「昔の仲間は元気そうにしてるわよ。みんな自分の次元で遊んでいるわ」
 急に、懐かしい思い出がこみ上げてきた。
 かつて、共に進化の道を歩んだ仲間たち。栄光の未来を目指し、一緒に地球脱出を果たしたみんな。真実の特権階級の少女たち。
 かつての地球脱出計画の仲間たちを思い出す。理解の翼を広げ宇宙へ飛び立った少女。天の命の河の少女。愛の歌を歌うバンドの少女たち。そして……
 ガイア様の精神波を通して、彼女たちの最新の情報が私の心に一気に流れ込んできた。永遠が一瞬で現れたかの如く。
「よかったわ。みんな壮大な物語を紡いでいるようね。そういえば、最近は直接会ってないわね」
「近い内に皆を集めましょうか」
「そうね……そのうちね……」
「探しものね」
 彼女はわかってる、というふうに言った。
「ちょっと、迷子をね」
「あなたはとても愛されているようね。かわいい子たち?」
「ええ、もちろんよ。あの子たちは、この私の遺伝的性質を色濃く継承させた、純系のお姫様ですもの」
「自信満々ね。素晴らしいことだわ」
「自分に自信がなくては支配者は務まらないから。私は何者にも支配されないことを自分に誓った。支配されないものは支配者になるしかない。それは当然の理よ。あの子たちには真の残酷さを知らずにいて欲しい。束縛という真の残酷さから。自由な翼のままで飛び続けられるように。私の籠の中でいつまでも飛び続けて欲しい。翼を失うことだけはあってはならない。それだけは支配者たるこの私が責任を持って絶対に守り通すわ。だから翼を失いかけた子を探しているの」
「あなたがそう願うなら必ずそうなるわ」
「ところでイスカ様、実はあなたに会いたくて待っている子がいるのよ」
「え?」
「ほら、そこよ」
 ガイア様が私の背後を指差した。振り返ると、すぐ後ろの白い空間に黒い扉があった。掘り込まれた花の模様とそれに囲まれた扉の中心にある月の紋章。
「この扉はまさか……」
 私の心に躊躇いが浮上するのを感じる。それを見透かしたガイアは、
「会ってあげたら?彼女、あなたに会うのを本当に楽しみにしていたわよ。表情には出さなくても私にはわかったわ。あなたただって本当は会いたいはずよ」
「……わかったわ」
 私はゆっくりと扉を開いた。白い空間に真っ暗な影が滲み出てきた。私はかまわず扉をくぐり闇の中へと入った。
 陽花宮では感じることのない、心に染み込んでくるような深遠の闇。
 暗闇の中にだんだんと目が慣れてくる。私は、今まで着ていたオレンジに赤のコスモス模様の着物姿から白い着物姿に変身した。ひっそりと静まり返った黒い城らしき場所だ。ゴシック様式の壁やアーチ、天井は暗く見えない。床は黒い大理石で入ってきた扉の正面方向に黒い御影石の柱が二列に並んでその間の道が奥の黒い玉座へと続いていた。 そこにひとりの少女が座っていた。漆黒のドレス、私と似た長い黒髪、頭に頂く金の王冠。少女の表情は、柱の影が重なっていて良く見えない。微動だにしない彼女からは何の気配も感じない。玉座の背後の壁の上方にある、月の描かれたステンドグラスの向こうから本物の月の光が差し込んでいて玉座の間を冷たく照らしている。
 私が一歩右足を踏み出したとき——
「久しいな、イスカよ」
 急に氷のような声が空間全体に響いた。頭上から降り注ぐように聞こえる。声と共に狂気の精神波が城内を満たした。それは私にとって、とても心地好いもの……
 次いで玉座の少女の髪の毛が僅かに揺れ、彼女の体の周囲が赤い発光を帯び始めた。ドレスの胸の中心についた赤い宝石が輝き、顔を隠していた影を消し去り、白い肌と血のように赤く光る瞳が私の目に飛び込んできた。完全な美しさの少女は不敵な笑みを浮かべて私を見据えた。そんな彼女に私は、
「本当に久しぶりね、ずっと待っていたの?」
 すると彼女は、
「いいや、来たのはたった今だ。お前の接触を感知して転移したのだ。玉座には換装用の抜け殻を座らせていただけだ。王が不在の玉座など見せられぬのでな」
「ばらしててしまったら意味がないわよ」
 彼女は私の指摘を気にも留めずに続けた、
「お前のことだ。いずれ地球が恋しくなって戻ってくると思っていた。だからガイアに空間だけを預けておいたのだ」
「別に恋しくなったわけじゃないわ。必要に迫られただけよ」
「探し物か?お前の心の悩みを感じるぞ。お前が創造物ごときに心を煩わすとは意外だな。不要なものは何でも捨ててきただろう。地球でさえ捨てて飛び出しただろう。失くし物くらい忘れるのは簡単だろう。善悪などという取るに足らないちっぽけな制限から抜け出した我々だぞ。星のひとつやふたつ破壊したところで何とも思わないお前だったろうに」
「今は違うのよ。私の探している子は私の希望の星よ。あなたが気にすることじゃないわ。それよりどうなのあなたのお城は?」
「増築に増築を重ね、私でも把握しきれないほどに成長したよ」
「無計画なあなたらしいわね」
「細かいことは気にしないと言って欲しいな。それでイスカよ、不死化した体の調子はどうだ?」
「絶好調よ。あなたこそ、量子脳は正常かしら?」
「もちろんだ。……なあイスカよ、そろそろ、その仮面の態度を外してもいいのだぞ」
「それはあなたも同じでしょうに〝魔王様〟」
「やっと我が名を呼んでくれたな。本心もぜひ聞かせてくれ」
「そのくらい、精神波でわかるでしょう。あなたが思っているのと同じよ」
「私は直接聞きたいのだ。お前の口から」
「……わかっわ」
「私は……あなたを愛している。あなたが恋しくてたまらない。今すぐにでも抱きしめたい」
「私もお前を抱きしめたい。お前が愛しくてたまらない」
「わかっているわ。だけど……それはできない」
「何故だ?ガイアには抱きついていただろう」
「ガイア様の愛は私よりもずっと大きい。彼女の揺り籠のような愛情は私をいつでも迎え入れてくれて、そしてまた送り出してくれる。けれどもあなたの愛は……そしてあなたへの私の愛は……きっと戻れなくってしまう」
「一度あなたに抱きついたら。あなたに触れられたら、私は自分の世界を忘れてしまう。私の創った子供たちを捨ててしまう。それが怖いの」
「そうか……私も怖い。私も今の世界を捨てるのが」
 彼女の狂気の精神波が和らいでいくのを感じる……
「探している子は何という名前なのだ?」
「ロザリアよ。まだ生まれたばかりなの」
「ロザリアか……素敵な名だ。私も最近、新しい子を創ってな。エレニンという名前なのだ。私にとても懐いている」
「エレニン……いい名前ね。あなたのことだから、大掛かりなゲームでもその子にさせたんじゃないの?」
「私からの誕生祝いよ」
「あなたの物語も聞きたいところだけど、そろそろ行くわ。こうやって話しているだけで戻れなくなる気がするの」
 そう言って私は彼女に背を向けた。扉に向かって歩き出しかけたとき、
「もう永遠に、昔の私たちようには戻れないのか?心変わりはもう……無いのか?」
 精神が引っ張られるのを感じ、ぐっとこらえる。私は彼女に背を向けたまま、
「……そんなことはないわ。私がもっと強くなって、あの子たちがもっと成長したら。私の世界を、私無しでも任せられるようになったら。そうなったときにまた再開しましょう。だからそれまでにあなたも……」
「……わかった。私も強くなるよ」

 再び私はガイア様の元に戻った。背後で扉が消え去るを感じた。
「それで……地球へ入っていいかしら?」
「もちろんどうぞ。あなたは私に許可を取る必要なんてないわ」
「ちなみに、向かう時代はいつ頃なの?私が送ってあげるわ。今のあなた、ふらふらしているから」
「え?あ、そう、ありがとう。行きたいのは21世紀初頭辺り。細かい年月や次元のズレは自分で臨機応変に調節するわ」
 時間は幻想に過ぎない。過去は正確には存在しない。確かに存在するのは今だけ。過去へ戻るとは正確には過去にそっくりな世界への移動を意味する。
「わかったわ。それじゃあ、準備はいいわね?」
「ええ、お願い」
 本棚が掻き消え、代わりに宇宙空間に浮かぶ青い惑星が姿を現した。その懐かしい姿に思わず嬉しくなる。記憶の中と変わらない美しい水の惑星。
 私は帰ってきのね——


テーマ : オリジナル小説 -- ジャンル : 小説・文学

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アーニャ・アルメリア

花の宇宙宮殿、陽花宮の最重要花弁の書庫花の管理者。
イスカ様の不在時に書庫花を守る。

ピンクのセミショート髪と青い瞳の少女。黒いローブを着用している。
書庫花は別次元に通じていて、あらゆる情報にアクセスできる。
でも彼女自身はそんなに情報の海に深く潜れるわけではない。
比較的浅い場所からゲームや本を釣ってきて遊ぶことを趣味にしている。

テーマ : キャラクター設定/紹介 -- ジャンル : 小説・文学

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薔薇王女ロザリア

ロザリア

陽花宮製薔薇型宇宙戦闘機
陽花宮創造主イスカ様が創った。宇宙戦闘機のボディに別の船の知性を組み合わせて誕生した。

薔薇型戦闘機形態:高速戦闘モード

少女形態:生活モード、コミュニケーションモード
金髪に赤いドレスの多次元宇宙少女
寡黙で感情の起伏が少ない。

ローズオーラフィールド:赤い薔薇の精神波オーラを展開する。
ローズスパイク:思念によって遠隔操作する薔薇の刺。赤いビームを放つ。
ローズブレード:オーラをブレード状に収束させてた真紅の剣。

テーマ : キャラクター設定/紹介 -- ジャンル : 小説・文学

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アルバム
境内
神主紹介

神河命

神主:神河命
未来予知、願望成就の能力を持つ。

幸福宇宙神社へようこそお越しくださいました。

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